エアードーム (INFLATABLE DOME)


新エアードーム「NEXT」



 

2代目10メートルドーム「NEXT」

 プラネタリウムは、半球形の丸天井に星空を投影します。投影機と並んで欠かすことのできない部分ですが、精密機器である投影機に対してドームは大きな構造物で、プラネタリウムシステムの中では特殊な位置づけになります。ふつうのプラネタリウムドームは、一定の土地に固定した施設として建設されますが、移動式プラネタリウム・アストロライナーでは、空気でふくらますエアードーム方式を使い、各地への運搬と移動運用を可能にしました。
 現在運用しているエアードーム「NEXT」は100名収容可能な密閉型エアードーム(空気膜構造)で、アストロライナーにおいて2代目にあたります。エアードームとは、柔らかい生地を空気圧でふくらまして形成した構造物のことで、大きなものでは東京後楽園の東京ドームが有名です。この方式は、このドームの前作にあたる初代ドーム「METEO」(直径8メートル開放型)から使用していましたが、METEOには様々な問題点があり、本格的な移動公演のためにはこの解決が必要でした。
 今回のドームは、METEOが老朽化して使用に耐えなくなったことから計画、METEOの製作と運用を通して得られた数々のノウハウをもとに、よりスマートで機動性を備えつつ、より大きな観客収容能力を持つ新鋭ドームとして開発されました。100名収容規模のプラネタリウムドームの移動運用は他にはまったく例がなく、機動性をもつアストロライナーを最も特徴づけるパートでもあります。
 




 

NEXTドームの構造

 NEXTドーム本体の大きさは直径10メートル、高さ6.8メートルで、重量はおよそ140キログラムあります。星空を映し出すための半球部と、球面部を適当な位置に保持するための円柱部からなります。円柱部の高さは1.8メートルあります。この高さがドーム内の地平線にあたります。このドーム全体がいっさい骨格を使うことなく、すべての構造を空気圧のみによって支えられます。 生地は特殊繊維で強化された肉厚0.4ミリの特殊塩化ビニル膜です。これは遮光層の表裏を白色の反射層でコートされた3層膜となっていて、白昼下でも内部の暗黒を保つ高い遮光性と、内面スクリーン(映写面)の高反射率を兼備しています。また、消防法規定の難燃処理が施され、建築物としても充分な安全性を備えています。地平線以下の壁面部は黒色生地で、細長い素地を無接合で一周させたシームレス構造として高い抗張力と悪環境に耐える耐久性を実現しています。

  半径5メートルの球面部はプラネタリウム装置のすべての光学系が終結するいわば巨大な光学部品です。球面部の設計には自重変形を考慮し、素材物性と各部応力解析をもとに重力補正を行って設計圧での展張時に真球となるように設計されています。この重力補正はNEXTドームで新規に導入したキーテクノロジーのひとつです。ドームを支えるための最小圧(自重バランス点)は25Pa強ですが、定格内圧は30Pa(パスカル)とし、自重バランス点よりも過剰圧を与えることで、初代ドームで致命的であったしわの抑制と安定度の向上を図っています。屋外公演では内面の汚染と雨水の侵入が問題となるため、床まで被われた密閉型を採用、初代の開放型で問題となっていた加圧初期の安定度の問題を解決し、加圧設営作業が少人数でできるようになりました。

 内部加圧は誘導電動機による40ワットの業務用有圧換気扇で、サイリスター制御による加圧制御を行っています。送風による完全展張までの所要時間はおよそ30分です。(運搬、バラスト取り付け調整時間など含まず)

 出入り口 エアードームでは、出入り口に特別の工夫が必要です。ただドアをつけただけでは、開けたとたん空気がぬけて、ドームはすぐにしぼんでしまうからです。この問題を解決するため、アストロライナーでは、2代通じて2重ドアエアロック方式を採用しています。

  2つのドアは、チューブ状の気密室で接続され、片方がドーム側に取り付けられています。最初は両方のドアが閉じた状態であるとします。まず外側のドアを開き、観客を気密室内に導入します。そこで外側のドアを閉じ、つづいて内側のドアを開けば、空気を漏らさずに観客をドーム内に入場させることができます。


初代8メートルドーム「METEO」



 

初代ドームMETEO(写真:テレビ朝日)

 現有の10メートルドームを語る上で、その礎となった今は亡きMETEOを抜きにすることはできません。METEOという名前の由来は、外観が真っ黒で、形がすこしいびつだったため、このドームを見た子どもが「隕石だ!」と呼んでいたことから「隕石=meteorite」=METEOという名前がつきました。  METEOドームは、塩化ビニルシートを素材とし、粘着テープで接合して製作されました。外装は遮光性をもつ黒色膜で空膜構造を形成、内側の地平線以上のスクリーン面には白色膜を内張りしていました。底面は、設営地の地面が露出する開放型で、バラストとボトムフランジによって安定を保っていました。底がないぶん全体を軽くでき、過剰圧時はフランジから空気が自動的に漏れるため、特有の内圧安定効果があり、それらの点では密閉型に比べて有利でした。
 しかし、素材が塩化ビニルのみの単層膜で耐久性、強度に乏しかったことは致命的でした。張力によるのび、経年劣化は想像以上に激しく、数回の使用で円滑な運用に支障を来すようになりました。粘着テープによる接合部も、長期の使用によって劣化し、老朽化を早めました。また、スクリーンのシワは、演出効果の点で大きなマイナスでした。これは、外側の遮光用黒色膜に空圧をかける外壁加圧となっていたことが原因です。内壁のスクリーンを平滑に保つためには内壁加圧のほうがすぐれていることはわかっていましたが、遮光の問題から実行できなかったのです。より理想的な素材の選定が課題として残されました。

NEXTドームの開発

 初代ドームが使用不能となり、新エアードームの開発が始まったのは94年秋でした。その最大の課題は、ドーム素地として適した生地を見つけることでした。素材探しが難航しましたが、果たして3層構造の遮光性と反射率を有する抗張力素材を入手するめどがつき、製作は一気に現実化しました。
 新エアードームのねらいは、屋内外を問わず安定的に運用できる耐久性を持ちつつ、投影ドームとしてすぐれた球面性、反射率をもつことでした。形状変形の問題に対しては、経年変化の少ない抗張力素材の検討、また最大の課題である重力変形の補正設計について検討を重ねました。東京ドーム等の大型空気膜構造を手がけた建築技師に協力を依頼し、一方で張力解析と、サンプルによる物性データ測定をおこないました。
 接合技術に関しては、高周波溶接装置(ウエルダ)として、MOS-FET2石による高周波電源と溶接装置の試作を試みました。しかし接合の信頼性、強度の両面で、接着剤が充分な能力を持つことがわかり、接着剤一本に絞ることにしました。  素材選定と形状設計の目処がたち、製作に入ったのは95年3月、千葉県の日大体育館を借りて、1週間という短期間内で、集中的に作業を行いました。(なお、作業では、日大理工学部天文研究会、および同精密機械工学科の方々に協力して頂きました。この場を借りてお礼したいと思います。)


ドームの形式

開放型と密閉型には以下に示す通り、それぞれ一長一短があります。

開放型ドーム

 開放型とはいっても、上に開放しているのではなく、底部が広く開いているものです。つまり、大きなおわんのような構造になっているわけです。ドームの自重により底辺が地面に密着し、気密が保たれます。ただし安定度改善のため、底部にボトムフランジがとりつけられています。ボトムフランジは内圧によって地面に押さえつけられ、気密性と安定性を高めます。一方、過剰圧時にドーム全体が浮き上がり空気を逃がす効果をもたらします。

密閉型ドーム

 開放型とは異なり、底まで完全に閉じられたドームです。つまり、完全な袋の状態です。(ただし、NEXTドームでは底面の中心に小さな空気抜き用の穴があいています) 閉じた袋なので送風機をとりつければ簡単に膨らますことができます。また、仮にバランスを崩しても、それがもとで空気が大量に漏れることはないため、転倒の危険性は少なくなります。ただし自然に空気の逃げ道が確保されることはないため、過剰圧が起こりやすく、精密な加圧制御が必要になります。

  下に、開放型ドームと密閉型ドームの特徴を対比してみます。
 
 

形式 開放型(METEOドーム) 密閉型(NEXTドーム)
重量・生地 底部がないため、密閉型に比べると生地は節約でき、全体が軽くなる 底まで生地を使うため、生地と重量がかさむ
形状精度 底がないため、底面の真円度がでないことがある 底により底面の高い真円度が得られる
安定性 横風など外力による転倒の可能性がある。ただし内圧変動の自然安定効果がある 密閉しているので転倒の危険性は少ない。内圧変動により地平線高度が変動しやすく、制御が必要
対汚染性 内面スクリーンが地面にふれやすく、泥などで汚染しやすい 内面は密閉されているので清潔が保たれやすく、汚染しにくい
設営・撤収作業性 設営では、常に空気漏れを防ぎながら加圧する必要があり、独特のコツが必要。安定するまで数名の人数が必要。撤収時は、空気抜きが楽で、あるいは転倒させて簡単に折り畳める。 設営時は送風機を取り付けるだけで一人でも簡単に加圧できる。撤収時は、空気を抜く操作が必要。(送風機の逆接による強制排気を行う)
適した設営環境 体育館など屋内に適している 屋外環境に対応できる