VOICE-1

「メガスターの星空を見て」

 

伊東 昌市さん(杉並区立科学教育センター)

 プラネタリウムの楽しみ方は人によってさまざまだ。けれどもプラネタリウムが好きな者が求めている最大公約数とも言うべき性能は「如何に本物に近い星空を見せてくれるのか」であろうと思う。その結果、多くの場合、大型のプラネタリウムに軍配が上がっていると言えるのではないだろうか。一方大型であればあるほど、小回りがきかない、あるいは解説者とのコミニュケーションが失われてしまうという傾向がある。当然建設や運営にはお金がかかる。これは宿命ともいうべきものである。

 昨年の6月、こうした今までの概念を打ち砕くプラネタリウム投影機がロンドンに登場した。2年に一度開催される国際プラネタリウム協会の総会会場でのこと。仮設された直径6メートルの風船ドームに、いそいそと入っていく人々がいる。ところが、一旦入るとなかなか出てこない。外では大勢の人たちが待っている。ようやく出てきた人たちは、どういうわけか目を丸くして、顔がほてっているのだ。両手を広げて首をすくめている人もいる。必ずしもエアー・ドームの中が暑かったからではなさそうである。

 飛行機の手荷物で運んできたというちっぽけなプラネタリウム投影機が何故こんなきれいな星空を映せるの?これがOohira`s Mega-star Planetarium を見た世界の反応だった。

 メガスターの星空はとても自然に見える。星像が小さいせいかも知れない。何よりも驚くのは天の川の美しさである。僕は日ごろあのべたーっとした天の川については不満だらけであった。だが、メガスターの天の川は美しさの次元が違うのだ。間違いなくどのメーカーの投影機もかなわない。

こんなことを言うと「何とオーバーな表現をするんだ。そんなわけあるはずがないじゃないか。」とお叱りを受けそうである。確かに個人で作ったプラネタリウムが数億円のプラネタリウムにかなうはずがないと考えるのは当然である。だが、決して誇張ではない。

 何故なのか?製作者の大平さんに話を伺い「なーんだ」と簡単に謎が解けた。自然に見えるはずである。理由は「最もあたりまえな方法」で天の川を投影していたからであった。つまり天の川投影装置を備えていないのだ。コロンブスの卵であった。

 天の川は何故ぼんやりと輝いているのだろうか考えてみてほしい。いみじくもガリレオが発見したように眼では分解できない無数の星々の光を感じているからである。大平さんは「本物と同じ方法で」星空を見せようと考え実行したのだ。教科書には人間の眼には6等星までしか見えないと書いてある。そこでこれまでのプラネタリウムは6等星まで、あるいは「おまけして」せいぜい7、8等星まで投影できるようにしてあったに過ぎない。宇宙空間では少し暗い星まで見えるからである。けれどもこの方法では天の川が見えない。そこで何段かの等濃度フィルターを重ねて天の川の「もやもや」を作っているのである。

「伊東 昌市(いとう しょういち)」1947年生まれ。東京学芸大学大学院修士課程修了。杉並区立科学教育センターで物理指導主査として、プラネタリウムを用いた天文教育に携わる。1989年クアラルンプール国立プラネタリウム建設計画に政府調査団として参加、1996年にIPS(国際プラネタリウム協会)から通算10人目として功労賞を受賞。番組台本、海外の翻訳なども多数手がけるなど幅広く活躍。「地上に星空を」(裳華堂)、工作による天体観測(共立出版)ほか著書多数。JPS(日本プラネタリウム協会)、IPS委員。
 大平さんは11.5等星までの星を全て映すことにした。100万個以上という膨大な星の数である。メガスターと名づけた所以である。これ以上忠実な天の川は無い。  こんなことが可能になったのはヨーロッパ宇宙機構(ESA)が打ち上げたヒッパルコス衛星のお陰である。大平さんはこの衛星データから作られたタイコ(チコ)・カタログを使ったのである。だから星が多いだけではない。どのプラネタリウムより新しくかつ正確な星空なのである。

 大平さんは最近さらに改良を加えた。無論、星の明るさの違いが輝度ではなくポグソンの法則に従った光量差で表現していること等、プラネタリウム共通の問題点は依然残されている。けれども本格的な12mドームで見せてもらった星空は、ロンドンでの驚きを凌駕する衝撃的なものであった。

 メガスターを楽しむには双眼鏡携帯が絶対条件になるだろう。これがまた感動的なのだ。

うそだと思うなら試してみたまえ。