メガスター用全天映像システム「OGDS」の開発


2003年12月26日
改訂番号 1.2
大平貴之、和田孝志

全天映像で星空にオーバーラップされたオーロラ
(投影イメージ)




大平は、全天に単一もしくはプロジェクタでCG画像を投影する全天映像システム「OGDS」(仮称)を開発、2003年12/21〜24日に、日本科学未来館で開催したメガスター上映イベント「星空の贈りもの」にて初公開した。

シミュレータ・ディバイダーのメインウインドウ

ディバイダーで生成された
校正用グリッド画面

ドーム端に配置されたプロジェクタユニット

■特長

OGDSはコンピュータグラフィックスによる映像を作成し、ドーム全面に歪みなく一様に投影するシステムである。といっても、ハードウエアはほとんど既製品であり、ソフトウエアも、一部のツールを開発したにすぎない。これまで全天映像システムにはさまざまな製品が存在するが、OGDSは、低価格の汎用品で多くを構成でき、高品位の全天映像を極めて低コストで実現できることがわかった。

■構成

1.レンダラー

あらゆるオブジェクトを、3次元空間座標や運動方程式、運動関数、光学パラメータを記述することで、全天円写野の動画像を生成するソフトウエア。オーロラ、雪、流星その他さまざまなオブジェクトの動画を生成できる。(大平が開発)
2.ディバイダー&シミュレーター
全天映像(画像)をもとに、光線追跡により、ドーム内に設置した各プロジェクタの投影画像を生成するソフトウエア。元画像はBitmapもしくはJ-Pegで、5000×5000Pixelまで対応できる。各プロジェクタには、光学パラメータ、設置位置(x,y,z)、姿勢角(p,y,r)を設定できる。したがって、プロジェクタの設置レイアウトは任意であり、不等分割、傾斜設置なども自由に対応できる。もちろんドーム径は任意で、水平ドーム、傾斜ドームいずれも対応できる。アンチエイリアスの有無が選択できる。(大平が開発)
3.サンプラー
実ドームで投影テストを行い、ドーム上座標と画面上座標の相関の実データを測定するツール。計算値と実値の誤差、ディストーション補正のための補正関数を生成し、ディバイダー&シミュレーターに送る。(大平が開発)

4.プレイヤー
各プロジェクタの映像を、任意のタイミングで再生する。全画面表示、ウインドウ表示、再生開始時間、終了時間などを任意に設定、実行できる。すべての操作は、リモートで行える。(アストロアーツ社が開発)
5.イメージコンバーター
地平線画像や、任意の文字、画像をドーム内の任意の位置に、任意の倍率と角度で投影するための変換ツール。元画像には、任意サイズのBitmapもしくはJ-pegが使用でき、出力ファイルは、全天フォーマット(最大5000×5000)の円形写野画像となる。アンチエイリアスの有無が選択できる。(大平が開発)

6.プロジェクター(NEC製に追加パーツ)

プロジェクタは、NEC製のDLPプロジェクタ(LT260SJK)であり、投影レンズ前方に、RAYNOX製ワイドコンバージョンレンズ DCR-FE180Proを装着した。光軸は、プロジェクタに対し10度ほど上向きに傾けるのが、今回の使用のかぎり収差最小のようである。また、1:10の透過率をもつNDフィルタを装着し、ソレノイドで開閉できるようにして、高輝度投影と低輝度投影を切り替えられるようにした。これは、高輝度の状態では、背景を黒にしても、若干の残存光があり、星空の見え方に影響するためである。
プロジェクタの選定理由は、1)コントラストが高く、格子の見えにくいDLP方式であること、2)幾何学歪み補正機能使用でき、会場での投影の複雑な歪み補正が可能であること、などであった。(既製品+和田が設計制作)

■映像作成手順

実際に動画を作る手順は 、次の通りである。

1)市販の動画編集ソフト(Adobe AfterEffect等)で投影する動画を作成する。文字や写真、動画などは、あらかじめイメージコンバーターで全天形式に変換しておく。これを静止画シーケンスで動画を吐き出す。
2)投影の分割数、プロジェクタ選定、光学系を決定し、単体のディストーション特性を測定する。
3)シミュレーターや現場確認で各プロジェクタの投影位置と姿勢角を決定する。
4)現場でサンプラーを使い、テストグリッド投射で、ディストーション補正関数を作成する。
5) 4)までのデータをもとに、1)で作成した静止画シーケンスを、ディバイダー&シミュレーターにかけて、各プロジェクタ用の静止画シーケンスを吐き出す。
6) 5)で作った静止画シーケンスを、市販の動画編集ソフト(Adobe Premiere等)で、AVI動画ファイルにまとめて、編集する。
7) 6)で作った動画ファイルを、各プロジェクタ用のグラフィックPCにインストールし、プレイヤーで再生する。

■会場での設置例

・「星空の贈りもの」の上映では、全天画像は、2000×2000Pixel、分解能10Pixel/degreeで作成した。
プロジェクタは、上記のものを計3台使用し、センター用を、会場背面、右サイド用を、会場左前方、左サイド用を会場右前方に配置し、それぞれ自由雲台に搭載した。
・LT260SJKは、ロール軸(光軸)中心の傾斜が±10度までしか許容されない(ランプの寿命に影響)。日本科学未来館のドームシアターガイアは傾斜23度の傾斜型ドームであるため、ドーム見切り面にプロジェクタ底面を合わせると、許容傾斜をオーバーしてしまうため、ドーム面に対しプロジェクタ底面を約11度傾斜させ、許容傾斜範囲に収まるようにした。
・地平座標(ドーム面座標)からプロジェクタの画面座標への座標変換は、レンズの歪み補正含めて、映像生成時に行っているが、設置時の残存誤差の修正に、上記の幾何学歪み補正機能を使用した。
エッジブレンディング(境界つなぎ)は、映像素材では特に行わず、画面エリア全面を使うようにした。投影時に、隣エリアにあたる余分な範囲の投影像を遮断する光学エッジブレンディングを施した。これは、フィッシュアイコンバーターレンズの前レンズ表面に、黒の粘着紙テープで覆い(アパーチャ)をつけるという簡易なもので、まずセンター用プロジェクタでグリッドを投影しながら、目盛りに沿って手作業でアパーチャを貼り込み、それと重なるように、左右のプロジェクタに同様の作業をして、輝度ムラが最も少なくなるように調整していった。簡単で確実な方法であるが、境界線の滑らかさにやや問題もあり、耐久性にも乏しいので、より効率的な方法の検討が望まれる。

■課題と今後の目標

1.問題点

1)3分割の映像境界線が完全に一致せず、一様に明るくなる画面(青空、雲空など)では、分割境界の明るさムラが容易に視認できてしまった。光学エッジブレンディングの処理が完全でなかったのが大きな理由と思われるが、明るさムラのパターンは、より複雑であり、単に境界線を完全一致させるだけで解決しきれないかもしれない。

2)3つの画像の重なり誤差を完全に解消できなかった
基準グリッドを投影し、幾何学歪み補正を使って3面完全一致を目指したが、完全に合わせきれなかった。元の画像の誤差が思いのほか大きく、幾何学補正で取りきれなかったためである。境界をまたぐ物体が2重に見える現象が顕著に現われた。今回はオーロラや雪などの映像で何とかごまかしがきいたが、単一の光点(惑星など)を投影する場合は、現状では非常に問題になると思われる。歪み補正のサンプリングが、プロジェクタの設置位置とずれた場所で、しかも1箇所だけしか行われなかったこと、本番で使うのと異なるセットを使い、投影レンズと補正レンズの位置関係もサンプリングと実使用できちんと再現していなかったこと、などが理由であると思われる。サンプリングを実使用に一致させ、細かく行えば、この問題は解消できると思われる。

3)高輝度時と低輝度時の切り替えが気になった
NDフィルタの挿入、非挿入の切り替えで背景の明るさが切り替わるのが容易に視認でき、不自然なものになった。NDフィルタを可変にして、連続的に透過率を変えることのできる機能を搭載することが必要なようである。

2.今後の目標

・リアルタイム描画機能の搭載
 今回の上映では、レコード&プレイバック方式で、AVIファイルにまとめたものを再生するのみであった。動画として事前に作成する方法は、レンダリングに時間をかけ、リアルタイムでは難しい高い品質の映像を生成できる利点がある。しかし、光学式プラネタリウムの補助演出装置として使用するには、恒星投影機に連動するリアルタイム表示機能も必要となってくる。星座絵や各種グリッドなどの教育に必要な補助オブジェクト、場合によっては惑星、太陽、月、薄明などまで、リアルタイム描画で再現したい。基本となる座標変換、ディストーション補正技術、エッジブレンディングについては一定の確認がとれたので、残す課題は、プレイバック方式との併用をどのように行うかだろう。単純な切り替え動作は最も簡単だが、できればオーバーレイを行いたい。リアルタイム系とプレイバック系のプロジェクタを分ける方法、映像を信号レベルで重ねて同一プロジェクタで投影してしまう方法が考えられる。

・映像の直接生成
現在は、映像(AVIファイル)そのものではなく、静止画および静止画シーケンスを扱っているので、映像の分割や再生には、市販ソフトを使って動画化する手間がかかり操作がやや煩雑である。直接、OGDSのソフトウエア群から動画ファイルを生成するようにしたい。

■謝辞

今回のNEC製プロジェクタの選定および、ワイドコンバージョンレンズによる画角拡大の手法は、(株)リブラの鷲巣亘氏の考案、指導によるものである。また、プレイヤーの開発では、(株)アストロアーツの上山治貴氏にお世話になった。また、日本科学未来館での上映では、プロジェクタ製造元であるNECビューテクノロジー(株)より、プロジェクタ3台の貸与と、技術サポートを頂いた。この場をお借りしてお礼申し上げたい。