リスフィルム式投影原板の作り方
 

ここではリスフィルム式プラネタリウムの製作を考えている方に、その使い方を説明します。なお、若干の写真処理機材と知識が必要になりますのでご了承ください。

■フィルム式投影機とは?
ピンホール式投影機の一種ですが、投影原板にリスフィルムを使っているのが特徴です。通常は薄板に穴をあけて原板にするわけですが、穴あけは大変手間がかかる上に、特に小さい穴を作るのが難しいという難点があります。それに対してリスフィルムでは、写真の原理で「穴」を作るため、いちいち穴を開けないでよく、労力が大幅に削減できます。また、透明原稿さえ作れれば、0.1ミリといった非常に小さい星も容易に作り出すことができます。
 フィルム式投影機は、私が1986年9月に日大二高物理部で製作した2号機(月刊SKYWATCHER誌の87年1月で発表)にはじまり、その後高いクオリティを求める自作ファンの間で広まっています。
 

■リスフィルムとは?
 主に写真製版用に使われるモノクロ(白黒)の写真フィルムです。けれども普通のフィルムとの違いはそのコントラストにあります。普通の写真を撮るときは、被写体の色や明るさを様々な濃淡で表現しますが、リスフィルムでは、白か黒かしか表現しません。そして、白(透明)なところはほぼ完全に透明になり、黒いところは太陽の光もほとんど通さないほど真っ黒になる性質を持っています。したがって、全体を黒く感光させ、星に相当する部分だけ透明になるようにすれば、あたかも穴をあけたのと同様の効果が得られるわけです。
 焼付けには、透明原稿を使うことになります。この原稿は何度でも使えますから、同じものを何枚でも作ることもできます。
 

■道具の準備
透明原稿の道具

・アニメ用セル
アニメーション作成に使う透明フィルムです。手書きで透明原稿を作るときに使います。もし入手できなければ、OHPフィルムその他の透明プラスチックフィルムで代用することもできます。

・ロットリングペン
同じく手書きで透明原稿を作るときに使います。ロットリングというのは商標です。似たものにステッドラーがあります。なお、インクも必要ですが、通常の紙用ではなく、フィルム用のものを使います。

・コンピュータ機材
コンピュータで透明原稿を作る場合は、原稿製作用のデータとプログラム、コンピュータ、プリンタが要ります。プリンタはレーザープリンタが適しています。印刷用に、OHPフィルムも用意します。
 

焼き付けの道具

・リスフィルム
100枚入りの箱で売られています。キャビネ、六つ切りなどいくつかのサイズがあります。量的には、キャビネでまず足りるのですが、1枚あたりの大きさが小さいので継ぎ目が大きくなってしまいます。逆に六つ切りなどの大きなサイズでは、値段が高くなってしまいます。(キャビネで6000円〜7000円 六つ切りで12000円くらい/いずれも100枚入)

・暗室
といっても専用の暗室が用意できる人は限られているでしょうから、普通の部屋で、真っ暗にでき、バットその他の道具をならべられる場所を選びます。暗さの目安はむつかしいですが、基本的には物がほとんど見えないレベルの暗さが必要です。夜間、雨戸を占めればまず大丈夫でしょう。あと、薬品をいくつか使うので、作業場所には薬がはねても大丈夫なようにビニールなどをしいておきます。
 

・現像液
リスフィルムの現像には専用の現像液を使います。代表的なものに富士フィルムの「ハイリソドール」があります。粉末を水に溶かし、A液、B液の2液(各2リットル)をつくり、保存しておきます。使うときに同量混合して使用します。

・停止液・定着液
停止液と定着液は、いずれも普通のモノクロ写真の現像用と同じものを使うことができます。停止液は写真用の氷酢酸を100倍ほどに薄めてつくります。定着液は、たとえばスーパーフジフィックス(富士フィルム)を使います。これも粉末タイプです。

・バット
現像をするのに、使うフィルムに適した大きさのバットが要ります。ポリエチレン製がもっとも適しています。現像→停止→定着 の順に作業を進めますので、最低3枚、できれば5枚くらい用意したほうがいいと思います。

・温度計
現像液の温度を保つために必ず必要です。摂氏20度付近を1度刻みで計ることができれば、普通の棒温度計でいいと思います。2本あると便利です。

・ガラス板
リスフィルムと透明原稿を重ねて露光するときに必要です。

・セーフライト
リスフィルムが感光しない、深赤色のライトです。焼き付け・現像といった一連の作業は、すべてこの明かりの下で行います。以前は単体の電球タイプがあったのですが、今はセーフライトボックスに、リスフィルム用の深赤色フィルターを取り付けて使います。(印画紙用のだいだい色のものでも不可能ではないですが、少し感光する恐れがあります)

・光源
焼き付けの光源です。一番便利なのは引き伸ばし機ですが、用意できなければ、10ワットくらいの電球を使うことができます。

・その他
ピンセット、ビニールシート、ワイパーその他を用意します。
 

■透明原稿の製作
まず、透明原稿をつくります。これにはいろいろなやり方があります。以下に代表的な方法を示します。

1)手作業
透明フィルム(アニメ用セルなど)に油性インクなどで星をプロットするやり方です。穴あけするときと同じ要領です。ただしプロットしたものがそのまま像になりますから、より慎重にする必要があります。ペンとしては、やや値がはりますが、製図用のロットリングペンをお勧めします。(1本二千円くらい)インクはプラスチックフィルム用のものを使用します。

2)紙原稿に描いた後OHPフィルムにコピー
上質紙にインクで星をプロットした後、これをOHPフィルムにコピーします。プロットでしくじった場合、修正液などで直せるメリットがありますが、コピーのときに解像度がやや落ちてしまうこと、コピー機によっては全体が少しゆがんでしまう欠点もあります。

3)レーザプリンタ出力
最も労が省ける方法は、やはり数値で与えられた恒星データをもとにコンピュータでプロットして、OHPフィルムなどにプリンタで印刷するというものです。コンピュータのプログラミングができる方なら、この方法が最も正確で労も省け、一番適していると思います。
手作業でプロットする場合は、ふつうの穴あけ同様、当サイトで掲載しているグリッド紙を使うことができます。星図から書き写す手順は穴あけのときと同じです。

■焼き付け
リスフィルムに透明原稿を焼き付けます。暗室内でセーフライトの下でリスフィルムを取り出します。慣れないと少しわかりにくいですが、色の薄い側が表(感光面)になります。
  リスフィルムの感光面の上に透明原稿を重ね、ガラス板で押えます。露光は引き伸ばし機か電球で行います。引き伸ばし機の場合はランプハウスを一番上まで上げ、電球の場合は50センチ以上離します。露光時間は、数秒程度ですが条件により変化しますので、何度か実験して最適な値を決めてください。

■現像
  フィルムはその場で現像します。まず摂氏20度の現像液に2分〜4分ほどゆっくりかくはんしながら浸けます。正常なら1分〜1分半ほどすぎた頃から黒くなりはじめ、やがて光が当ったところが真っ黒になります。現像時間を変えることである程度仕上がりを調整することができますが、仕上がりを均一にするため、一度決めたら同じ時間を守るようにしてください。
  現像が終わったら停止液に漬けてかくはんします。30秒くらいで完了します。つぎに定着液で定着すると、乳白色だった感光剤(乳剤)がとけて透明になります。2分ほど処理すれば完了します。ここで普通の明かりをつけても大丈夫です。

■水洗と乾燥
  定着が完了したらよく水で洗います。流水で10分以上水洗してください(水洗が不十分だとあとで変色したり曇ったりします)。その後は乾燥します。ワイパーなどで水気をぬぐい、ホコリのつかないところにつるして乾かします。ドライヤーで温風乾燥もできますが、熱には弱いので、過熱しすぎないように注意してください。

■仕上げと切断
  できあがったら、キズなどがないか調べます。形どおりに切り抜けばフィルム原板は完成です。
 

材料の入手先

 リスフィルム・写真用品:写真材料店、ヨドバシカメラ等のカメラ量販店
 ロットリングペン:大手文房具店など