プラネタリウムスピリット(9)

なぜプラネをつくるのか?−ボクの子孫繁栄論−

「あなたはなぜプラネタリウムを作るのですか?」

最も当たり前にして永遠の課題である。僕はなぜプラネを作るのか。モノ作りへの関心。宇宙への飽くなき好奇心。そしてエンターテインメントの面白さ。その三位一体の接点がプラネタリウムである。それが今の僕なりの理解であり人への説明でもある。でも、なんで?

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ある本に面白いことが書いてあった。人間は遺伝子の乗り物であるという。どこかで聞いたことがある話だ。結局本能に左右されるってことだよね?遺伝子の目的なんてものは、結局子孫を確実に残す事だろう。だから恋愛や結婚、親が子に注ぐ無償の愛情の類の源は子孫を作り育てる本能だといえば説明できてしまう。そんな言い方は寂しいかもしれないが、ブンセキするとそういうことになるらしい。男女が愛だの恋だのにお熱を上げるのも、親が自分の命を顧みずに我が子を守ろうとするのも、とどのつまりは遺伝子の自己複製の本能がなせる業なのだ。

でも、ここで一見不思議になるのは、昆虫の世界だ。子を作らない働きバチ。彼らは決して自分の子を作らず、ひたすら女王バチの子育てに全てのエネルギーを注ぐというのだから摩訶不思議だ。この習性はどう説明すればよいのか?

実はこれも、女王バチと働きバチの間の遺伝子の関係を生物学に基づき注意深くひもとくと明解に説明できてしまうという。なんと、メンデルの法則にいろいろアレコレ手を加えて計算する(細かいリクツは忘れた)と、働きバチは自分の子を作って残すより、兄弟である女王バチの子を育てたほうが、自身に近い属性の遺伝子を後世に伝えることができることがわかったのだそうだ。

驚きである。サプライズである。遺伝子の目的はあくまで自身に近い属性を子孫に伝えることを優先するのであって、そうでさえあれば、自分の直系のコピーにはこだわらない。たとえば、Aさんが自分のプリントのコピーを取ろうとしているとする。もちろん、できるだけキレイに取ろうとするけど、別のBさんがもっとキレイなプリントを持っていたら、それで代用してしまう方がAさんにとってお得、とまあ乱暴な例えだが、簡単にいうとそんなもんだ。結果オーライの世界だ。

これ読んで、ハタと思い当たったことがある。
2年前(もうそんなになるかぁ。。感慨)のスパイラルで、カップルたちがドームで手をつないで入っていったこと。「素敵すぎて隣の恋人と結婚したくなりました」と感想を頂いた事。あの不思議な感激はなんだろう?不思議だろう?だって、典型的理工系のモテない男としては、普通さ、

俺様のドームでイチャイチャすんな!

とメラメラとジェラシーの炎(笑)が燃え上がっていいものだろう?(笑)。本当、我ながらおめでたい話だが、なんかワケわからん涙が出てきた。汚いガラクタ作業部屋でちょっと頭のおかしい理工系オタクが、夜な夜なハンダの煙と切削油まみれで作った変な機械が、こんな感動を演出できたことの不思議に、奇妙な気持になったんだよ。

実は先の話を読んで、なぜ僕がこんなにもムキになってプラネタばかり作ろうとしているのか、その理由がわかった気がするのである。つまりはメガスター上映こそが僕なりの子孫繁栄手段なのかもしれない。

つまりこういうことだ。プラネタリウム大好き人間の僕は、メガスターを見に来る人達(=プラネタリウムが好きな人達)に子孫を作らせることで「プラネタリウム好き」という属性を後世に残そうとしていた、という超短絡的にして明解な理論が導き出されたのである。一度に大勢の人に見てもらえる。自分で直接子孫を残そうとするより、遥かに効率がいい方法ではあるまいか?

そりゃぁ、僕だって若い頃は、「頑張ってより良いプラネを作って上映して女の子の気を引きたい♪」なんて事を実は心ひそかに考えていたものサ。アレコレじたばたしたもんさ。(笑うな。けっこう僕なりにマジだった)。ああ青春(~−~)

でもなんのことはない。このメンデルの法則に従うと、僕自身は異性の気を引くことも仲良くなることも、結婚して自分の子孫を残すことも、そんなことは最初から必要なかった。それよりもはるかに効率のよい能力を神様に授かった。僕がすべきことは、プラネを愛する人々(笑)に、ロマンチックな場を提供してあげること。それがプラネ大好き遺伝子(笑)を効率よく、しかも大量に残すことのできる一番効率のよい方法なのかもしれない。

だからドームの中でアベックがイチャイチャしてようが、ナンパする不届き者(何度か目撃)がいても、(もちろん公序良俗の許す範囲で、或いは他のお客様に迷惑にならない範囲で)温かい目で見逃してあげればよいのである。バカバカしそうで、理はある、というか、現実にそういう効果が出ているかもしれないよね。それどころか、結婚式場から引き合いがあるくらいなんだから、もうこれはジョークではない。

そんなわけで、ガンバッテ次のを作ろう。50年後の一億プラネ大好き時代、日本プラネタリウム党の与党政権奪取のその日を夢見て。

2002年9月30日